黒海テル
その犬がね、こう、見るぶんには利口そうなわけ。
だけど、すっごい吠えるの。
普通の吠え方じゃないよ。
うまいたとえはおもいつかないけど…とにかくすっごい吠えるの!
美先シキ
そこ思いつかないの!?
なんかたとえば、ライオンとかいろいろあるじゃん
黒海テル
美先シキ
黒海テル
まあとにかく…。
そのわんちゃんが、吠えるときと吠えないときあるのね。
で、それがつい最近の出来事らしいのよ。
美先シキ
つまり、さいきんなぜか、とつぜん吠えるようになったってこと?
黒海テル
そうそう。
どう? これってミス研が解決すべき事件じゃない?
美先シキ
世界中の事件について謝ったほうがいいと思うけど…。
黒海テル
ノアっちにこれ言ったら、喜んでくれるんじゃない?
シキにゃんの大好きな。
美先シキ
それはスルーするとして…。
まあ、いちおう、話してみる?
黒海テル
美先シキ
黒海テル
美先シキ
黒海テル
あ、いま、シキにゃん、それいいなって思ったでしょ。
美先シキ
シキとテルは図書室に向かった。
室内は3割がたうまっていたが、話し声はほとんどしなかった。
黒海テル
うちの図書室って、受験シーズンでもないのに、利用者すごいよね。
広さもえぐいし。
美先シキ
いちおう。いちおうじゃないか、お嬢様学校だからでしょ。
実際に通ってると実感ないけど。
黒海テル
美先シキ
黒海テル
天野川ノア
美先シキ
隣にいる立ったままのテルは、こちらのシキの両肩に手をおいた。
黒海テル
美先シキ
黒海テル
やれやれとため息をつきつつ、シキは椅子に座り、正面にいるノアに視線をやる。
分厚そうな推理小説を読んでいた。
美先シキ
美先シキ
ん? これか?
おもしろいかおもしろくないかでいったら…。
シキくん、きみのほうがおもしろいかな。
美先シキ
美先シキ
ぜんぜん話は変わるんだが、シキくんとテルくんは、鏡宮さんって知ってるか?
美先シキ
黒海テル
美先シキ
黒海テル
いやいや、これにかんしては違うって。
だって有名人だもん。
天野川ノア
そう。その美貌と、運動神経、学業の優秀さから生徒会長候補と呼ばれる数少ない人材。
ま、百合学園は生徒会長が3人いるから、少し違ってくるんだが。
で、その鏡宮さんなんだが、どの女子グループにも属さずひとりでいることが多いらしい。
美先シキ
天野川ノア
シキくん、そう答えられると、もうこの話は終わってしまうのだが?
美先シキ
うっ、うるさいな!
でもほんとにそうなんじゃないの?
天野川ノア
いや、私が考えうるにだね、これはあえて群れずに、1人で行動しているとみた。
美先シキ
天野川ノア
たとえば、秘密警察の諜報員とか、そういった理由だね。
美先シキ
は、恥ずかしい…。
私、ノアと同い年なことを急に恥じてきた。
秘密警察とか、はじめて実際に言葉として口にしたんだけど。
天野川ノア
まあそれはさすがにないにしても、これがたとえば、性格がすごい悪い、とかだと周りから離れてるんだな、というのがわかる。
しかし、見ているぶんには非常に人当たりがよく、おまけにスタイルもいい。
美先シキ
黒海テル
つまり、ノアっちは、ヒミヒミが群れて行動しないのは、なにか理由があるのでは…って思ってること?
天野川ノア
美先シキ
いやいやいや、そんなの人の勝手じゃない?
放っておきましょうって。
天野川ノア
べつに、私も詮索するつもりはないよ。
ただ気になるので、じろじろ見たり、こそこそ隠れて調査したい。
美先シキ
すごい詮索してる!
辞書で詮索を引いたら、今のノアの行動がたぶん記載されてると思う!
黒海テル
天野川ノア
今はいないみたいだがね。
というかいたら話してない。
美先シキ
次の日の放課後。
シキとノアは百合学園周辺にある、能見商店街に向かった。
なかは賑わっており、歩くのも少し苦労するほどだった。
天野川ノア
なにか、この名探偵の食指が動く事件はないものか…。
先美シキ
いやいや、こんなごく普通の商店街に、事件なんてそうそう起きないでしょ…。
(そういえば、きのう話したわんちゃんのこと、ノアに話してみようかな…)
天野川ノア
シキくん、この近くに新しいお店がオープンをしたのを知ってるかね?
先美シキ
天野川ノア
先美シキ
天野川ノア
先美シキ
重っ! そして高っ! JKにはむりでしょ。
あんた、あんまり食べないし。
天野川ノア
この通りに、たまにクレープ屋さんがやっているときがあるな。
車体がピンクの。
先美シキ
天野川ノア
ほかにも、近くでおいしい紅茶専門店ができたらしい。
百合学園内でもけっこうはやってるとかなんとか。
先美シキ
あー。
それ、テルちゃんが言ってたかも。
お持ち帰りができて、部屋でも飲んでるとか。
天野川ノア
謎といえば、きょうおもしろい噂を耳にしたぞシキくん。
先美シキ
天野川ノア
図書室の椅子が勝手に動いたり、足音がしたりするらしい、誰もいないのに。
先美シキ
天野川ノア
シキくん、それでもきみはミステリー研究会の部員かね?
先美シキ
天野川ノア
学校の七不思議みたいなことが、どうやら実際に起っているらしい。
しかも、実際に体験したのは1人や2人じゃない。
先美シキ
…ふうん。
なんだろう、集団で噂が広がるのを見て、影で楽しんでるとか?
天野川ノア
先美シキ
たとえばよたとえば!
口に手をあててそんな顔しない!
天野川ノア
まったく…。
ミス研に誘ったときは、もっと可愛げのあった女だったものだが。
先美シキ
天野川ノア
さて、たまには図書室じゃなくて、どこかのカフェでゆっくりしようとやってきたわけだが、当たり前だが街は代わり映えしないな。
先美シキ
天野川ノア
先美シキ
いやたしかに目の前の景色はそうだけれども!
たしかこっちのほうに、クレープ屋さんが停まっていたような気が…。
天野川ノア
先美シキ
天野川ノア
鏡宮ヒミ
しばらく進むと、クレープの移動販売があった。
ピンクの車体で、周りにはお客さんがたくさんいる。
その人混みから少し離れたところに、ヒミがひとり俯瞰するように立っていた。
先美シキ
鏡宮ヒミ
たたくなたたくな。
しかしすごい偶然だな。
さすが幸運の女神。
先美シキ
鏡宮ヒミ
先美シキ
天野川ノア
先美シキ
まあ、そりゃそうだけど。
あれでしょ、恥ずかしいんじゃない?
もしくは、ねっからのお嬢様で、買い食い禁止されてるお家柄とか。
天野川ノア
まあそれはありそうだな、うちの学校だし。
そうはいっても、実はけっこう校則がゆるいのもうちの特徴だから、買い食いもバイトもぜんぜんオーケーなわけだが…。
先美シキ
天野川ノア
先美シキ
クレープの種類じゃねえよ!
思わず素でつっこんじゃったじゃん。
天野川ノア
いつも素だろうに。
いやしかし、これは神様が与えてくれたチャンスだぞ?
学校内で話しかけるのはなかなかに勇気がいるが、今は人助けもあって声がかけやすい。
というか私がクレープ食べたい。
今食べたい。
先美シキ
天野川ノア
先美シキ
天野川ノア
こんなとき、テルくんがいてくれたらな…。
まあいい。
私の自然なコミュ力、というのを、シキくん、きみに見せてしんぜよう。
先美シキ
天野川ノア
鏡宮ヒミ
天野川ノア
すみません、ちょっとそこ行くお嬢さん。
職務質問をしたいのですが。
先美シキ
鏡宮ヒミ
天野川ノア
鏡宮ヒミ
ええ。
キャラが立ってる、って噂になってるし。
それに、アイドルみたいにかわいいし。
天野川ノア
美先シキ
直立したまま上半身だけひるがえせてこっちを向くな!
聞こえてるから。
まあ、あんた、顔だけはいいからね顔だけは。
天野川ノア
素性を知っているなら話は早い。
どうだい? いっしょにクレープを食べないかね?
あ、ナンパじゃないです、本当に。
美先シキ
鏡宮ヒミ
3人それぞれ、クレープを頼みやがて受け取った。
近くの鉄製のガードレールに腰掛けながら食べ始めた。
鏡宮ヒミ
ねえ、ノアさんって、ミステリー研究会? なんでしょ?
シキさんも。
天野川ノア
鏡宮ヒミ
天野川ノア
美先シキ
鏡宮ヒミ
とくになにも。
私、人混みって苦手で…。
ねえ、生徒会の人たちと仲っていい?
美先シキ
あー、うちのミス研、いやA組のほうがわかりやすいかな。
黒海テルちゃんが、仲いいかも。
天野川ノア
鏡宮ヒミ
んー。そういうのではなくて。
ただ、ほら、あの人たちって、いつも取り巻きみたいのがいて、近づけないじゃない?
いちど、近くで見てみたくって。
美先シキ
天野川ノア
赤百合生徒会、青百合生徒会、黒百合生徒会。
3つの生徒会が存在し、校内では謎のゴージャスなロングジャケットを身にまとう集団。
ただ、学園内のすべてのイベントを取り仕切り、毎年生徒内から投票で選出される特性上か、カリスマ的人気の生徒が集うという…。
なんというか、ほかの学校にはない、うちだけの制度と集団だな。
漫画みたいで私も最初はびっくりしたが。
美先シキ
ね。私も実際見るまで信じてなかったもん。
でも人気ほんとすごいよね。
鏡宮ヒミ
だから近くで見てみたいなって。
どこかでチャンスはあるかしら。
美先シキ
天野川ノア
美先シキ
鏡宮ヒミ
つまり、どこか密室…、人目のないところで話しかければいいのかしら。
天野川ノア
同時刻、百合学園の校内には1人の少女がいた。
青百合生徒会の多江良チグサだ。
校舎裏、茂みに隠れて様子をうかがっていた。
多江良チグサ
(誰にも姿を見られていないのは当然として…。
しかし、パトロールなんて必要あるのかな)
チグサは、時空機関が開発したステルス光彩で、透明化し完全に姿を消していた。
多江良チグサ
(話し声…?
この声は、赤百合生徒会長の、シンクさま…?)
鳥尾シンク
チグサは窓から室内を覗き込む。
誰もいない生徒会室で、シンクが電話で話していた。
鳥尾シンク
だから、あたし、もともとすごい紅茶が好きなわけでもないし。
いや好きは好きよ?
…そんなこと言わないで。
多江良チグサ
(あのシンクさまがけんかしてる?
…でもいったい誰と?)
鳥尾シンク
…たしかにそうだけど、あたしが行く必要はないでしょ?
恥ずかしいし、気まずいし。
言っとくけど、まだ誰にも言ってないから。
……。
さみしい、って。
いい? もうきるわよ?
多江良チグサ
(まさか恋人?
そうだったらかなりスクープだけど)
鳥尾シンク
あと、くれぐれも余計なことをしないように。
…いや、だから、ちゃんと現地の世界のものでね。
はい、じゃあ、仕事あるからきるわよ。
はい、はーい。
多江良チグサ
(これは思いがけない面を見ちゃったかも。
いったい誰と話していたんだろう…)
次の日、放課後。
シキたち4人は、百合学園近くのカフェ「紅茶館」に向かっていた。
閑静な住宅街で、あまり人は通っていなかった。
黒海テル
でね、この先に紅茶館があるんだけど。
そのまえにいる、わんちゃんが急に吠えるようになっちゃったんだよね。
美咲シキ
天野川ノア
少し先、右手に庭付きの豪華な一軒家があった。
門の中には、鎖のついたゴールデンレトリバーが1匹座っている。
が、こちらを見ていかにも唸り声を上げそうに構えているのが見えた。
そして次の瞬間、シキたちにむかって連続して吠え始めたのだった。
黒海テル
ほらほら!
まえは吠えなかったんだよ、ここのわんちゃん。
美先シキ
鏡宮ヒミ
黒海テル
ちょっと!
せっかくミス研の部員のひとりとして、謎を見つけてきたのに!
天野川ノア
なるほど。
たしかに気になる謎ではあるが、飼い主でもないかぎり、まったく原因はわからないな。
何かの病気かもしれないし。
美先シキ
天野川ノア
とりあえず、このわんちゃんはスルーして、少し遠回りして紅茶館に向かうか。
同時刻、赤百合生徒会室にて。
伊角ユウ
鳥尾シンク
伊角ユウ
鳥尾シンク
どうせ、紅茶館いこうって言うんでしょ?
ユウの言うことぐらい、わかってるわよ。
伊角ユウ
鳥尾シンク
こっちの世界では…って、百合学園限定でしょ。
あたしは嫌なの、紅茶館。
伊角ユウ
シンク、ほんと紅茶館は、かたくなに拒否するよわよねぇ。
鳥尾シンク
それよりも、よ。
問題はノアちゃんよ、ノアちゃん。
伊角ユウ
鳥尾シンク
せっかくノアちゃんが高等部上がったのに、なにもできないのつらすぎない?
伊角ユウ
しょうがないでしょ?
自然な成り行きに任すこと。
こちらから謎を用意するときは、必ず上層部の指示に従うこと。
鳥尾シンク
へいへーい、わかってますよーだ。
副会長の言うことはぜったいですよーと。
伊角ユウ
山女魚ベリ
『ねえねえ、シュアは、シンクさまが紅茶館に行きたがらない理由ってなんだと思う?』
生徒会室の入口近くにいる、ベリが小声でシュアに尋ねた。
鷹森シュア
山女魚ベリ
『え〜、いけずぅ。
あたしとしては、きっとあれじゃない?
ユウさまに隠れて愛人作ってるとか、そういう可能性があったりしてぇ』
鷹森シュア
山女魚ベリ
『あとはなんだろ、紅茶館、もしくはその周りに苦手なものがあるとか?
どう? このあたしの推理』
鷹森シュア
いっぽう、同時刻
青百合生徒会室では。
多江良チグサ
…というわけで、天野川ノアは紅茶館に向かっています。
私たちもあとを追いますか?
蔵素アオ
まあ待て。
せっかく3年間も待ったんだ。
もっと成り行きに任せたほうがいいだろう。
古戸ヒスイ
多江良チグサ
蔵素アオ
多江良チグサ
きのう、赤百合生徒会室の、シンクさまが、何やら怪しげな電話をしていた件は放っておいていいのでしょうか。
芝ルリ
きゃあああああ!
シンクさまのプライベート、気になりすぎです!
蔵素アオ
シバルリ、いちおう、敵対する組織の一員だぞシンクは。
多江良チグサ
うーん、でも、あのシンクさまがあんなふうに話してるなんて、初めてだったので、やっぱりちょっと気になるんですよね。
紅茶館の前
シキたち4人は紅茶館の中を覗き込んでいた。
店内はお客さんがいないようだった。
年季の入った木目のテーブル、カウンター近くにはグラスの数々。左手にある窓からは、木漏れ日が入りおしゃれな雰囲気がたちこめていた。
天野川ノア
黒海テル
土日はけっこう混んでたよー。
でもさ、ちょうどいいじゃん? 生徒会の人たちを待つにはさ。
天野川ノア
そんなうまくいくものか?
学校内では会えないから、ここにくれば…、生徒会の誰かがくる、そう踏んできたものの。
鏡宮ヒミ
天野川ノア
まあ、まえからここにはきてみたかったしな。
ではでは行ってみるとするか。
シキたちは扉を引いて中に入った。
心地よい鐘が鳴り、愛想のいい店員さんに笑顔で案内された。
いちばん奥の席、4人は椅子に座っていく。
天野川ノア
あの店員さん、どこかで見たことある気がするのだが…。
鏡宮ヒミ
天野川ノア
いや、そういうものではなく、もっと違うところで…。
会った気がするんだが。
どうにも思い出せんな。
4人それぞれ、メニューを頼む。
シキと、隣にいるノアはそれぞれ違うケーキセットにした。
やがて、4人の元にメニューが到着。
シキは紅茶を一口飲む。
今まで飲んだことのないような、甘くもあり異国感のあるような、独特の味わいだった。
美先シキ
すごい…。
お砂糖入れずに、まず飲んでみたんだけど、なんか甘いし美味しい…!
天野川ノア
シキくん、きみ、グルメレポーターには向いていないな…。
もっとこう、上手なたとえをだな。
美先シキ
天野川ノア
ノアはソーサーを持ちつつ、ティーカップを手にとり、優雅に一口紅茶を飲んだ。
天野川ノア
すごく…、こう、言葉には言い表わせないような…、筆舌に尽くし難く…。
美先シキ
黒海テル
でも、わかるよ?
たしかに、言葉に言い表せない独特の味っていうか。
そのときだった。
扉の鐘が鳴り、シキたち全員の視線がそちらにいった。
驚くことに、そこにいたのは赤百合生徒会の、生徒会長シンクと副会長のユウだった。
天野川ノア
お、おい!
本当にきたぞ生徒会の二人が!
しかも会長と副会長!
美先シキ
天野川ノア
もともと、ヒミくんの手助けになればと思って、ここへはきたが…。
私自身も、二人を近くで見れてちょっとテンション上がってきたぞ。
シンクとユウは、ノアたちと少し離れた席に座った。
入口に近い壁際の席である。
黒海テル
惜しい。
先に誰かがいれば、もう少し近い席に、シンクさまとユウさま、店員さん、通してくれたんじゃない?
鏡宮ヒミ
あら?
それくらい近いと、たぶん、こんな内緒話できないかもよ?
黒海テル
天野川ノア
鏡宮ヒミ
うーん、本音を言うと、もっと近くで見たいかも。
というか、あわよくば話してみたかったり。
黒海テル
美先シキ
やがて、シンクが店員を呼んだ。
メニューも見ずに、テーブルに頬杖をついて何かを話している。
その後、ゆっくりとシンクとユウは立ち上がった。
店員さんが、シキたちの隣のテーブルに近づいてきた。
次の瞬間、店員さんは、空いているテーブルを持ち上げ、こちらのテーブルとドッキングしたのであった。
ノアは目を丸く見開いた。
隣にいるシキの、すぐその右隣にシンクとユウが移動してきたのである。
シンクはとても楽しそうだったが、対する通路側にいるユウはやれやれと言わんばかりに、どうにも呆れている様子で片手を額に手を当てて目をつぶっていた。
席に座ったシンクは、それぞれ挨拶する1年生4人に対し、朗らかに笑って手を振った。
鳥尾シンク
伊角ユウ
黒海テル
シンクさまとユウさまは、よく、紅茶館にこられるんですか?
鳥尾シンク
黒海テル
伊角ユウ
黒海テル
美先シキ
(シンクさま、何があったんだろう…。すごい気になるんだけど…)
天野川ノア
テルくん、シンクさまとユウさまと、親交があるのかね?
やけに親しげだが。
黒海テル
よく中等部のころから、手伝っててさ。
それでちょくちょくね〜。
鳥尾シンク
そうね、あたしとしたことが。
テルちゃん、みんなの紹介、お願いできる?
黒海テル
はいは〜い、もちのろんでございます!
こちら側から紹介すると、鏡宮ヒミちゃん!
テルはすぐ隣に座る、壁際にいるヒミに向かって両手を差し出した。
黒海テル
見てのとおりの容姿端麗で、実は私テルも気になっていたおなごさまでございまして、きょうゆっくり話せてご満悦の悦でございます。
美先シキ
黒海テル
おまけにスポーツ万能、成績もめっちゃいいんだよね〜、ヒミヒミは。
ね、ヒミヒミ?
鏡宮ヒミ
いえいえそんな…。
ヒミです、よろしくお願いします。
そう言うと、ヒミは、シンクとユウをじっと正面に見据え、交互に視線をあてがった。
時間にすると、ざっと3秒ほどだろうか。
鳥尾シンク
伊角ユウ
鏡宮ヒミ
黒海テル
ヒミヒミは、すんごいお二人に会いたがってて。
きょう、ここにきたのも、ヒミヒミがきっかけだったりするんですよ〜。
伊角ユウ
鏡宮ヒミ
ヒミは礼儀正しい仕草で胸に手をかざすと、優雅の極みといってもいいほどの仕草で柔和にほほえんだ。
どこかマリアさまのような気品さえあった。
美先シキ
(おお、さすがヒミちゃん。
転入したてで、いきなり生徒会長筆頭候補、とまでいわれることある。
でも、なんだろう、どこか違和感があるような…。
どことはいえないけど)
伊角ユウ
黒海テル
お次は、美先シキちゃん!
ツッコミの達人なんですよ〜。
美先シキ
黒海テル
いやいや、シキにゃんも、私と同じで一般ピーポーっしょ?
美先シキ
テルちゃんが一般ピーポーかはちょっと疑問が残るけど…。
それに関しては言い返せません…。
鳥尾シンク
美先シキ
伊角ユウ
鳥尾シンク
いえ、なんとなくだけど、あなたには不思議な力がありそうと思ってね。
いいの、忘れて。
天野川ノア
よかったなシキくん。
生きてて言われたいフレーズナンバーワンだぞ、「不思議な力がありそう」。
美先シキ
黒海テル
そして最後は我らがノアたん!
我らがミステリー研究会の部長で、不思議なことや事件が大好きなんです〜!
天野川ノア
美先シキ
鳥尾シンク
よろしくね、ノアちゃん。
それじゃあ、何か事件があったら、お願いしちゃおうかしら。
天野川ノア
もちろんです、お任せください。
1億円ほどいただきます。
美先シキ
そうこうするうちに、ユウとシンクの紅茶セットも到着。
二人はそれぞれ紅茶をゆっくりと飲み始める。
伊角ユウ
天野川ノア
伊角ユウ
え? ええ。
…私、むかし、インドネシアで紅茶の修行し、してたから。
美先シキ
伊角ユウ
そういえばノアちゃんは、さいきん、ミステリー好きの食指が動く事件には出会ったのかしら?
黒海テル
テルは小声で、隣にいるヒミに尋ねた。
鏡宮ヒミ
『興味、関心のある分野に関する、アンテナ? かしら』
天野川ノア
いえ、それがさっぱりで…。
シキくんあたりが事件に巻き込まれるとは思っていたのですが…。
美先シキ
鏡宮ヒミ
しいていえば、近くのわんちゃんが急に吠えるようになった…、とかかしら?
黒海テル
天野川ノア
わかった。
花咲じいさんの霊が、このへんをうろうろしているのではないのかね?
美先シキ
その後、話は盛り上がり、夕方暮れ前まで6人は話していた。
その後、店の前でそれぞれ解散したのだった。
紅茶館から少し離れた、閑静な住宅街。
ユウとシンクは、信号待ちをしていた。
伊角ユウ
も〜う、シンクったら。
せっかくのチャンスだったのに、ノアちゃんといっしょに寮まで帰ったらよかったじゃない。
3年と1年、近いんだから。
鳥尾シンク
近くのわんちゃんが吠え始めたのは、あたしの母親が出し始めた、あの紅茶のせいよね、ぜったい。
伊角ユウ
鳥尾シンク
王宮を離れて3年間、しびれを切らしたあたしの母さんは、この異界に異界ヴァルフーツでしか採れないアーリア草を使った紅茶を出した。
おそらく、こっちの世界に使われている成分とそれほど変わらないものだろうけど…。
でも、嗅覚のいい犬はわかった…、そんなとこかしら。
それに、最近はテイクアウトも売れているみたいで、しょっちゅううちの生徒も毎朝毎晩吠えられてるみたいだし。
伊角ユウ
というか、シンク、お母さまにあんな態度とらないの〜。
鳥尾シンク
いやいや、実の母が経営してるお店に行くのなんて、そんなものじゃない?
伊角ユウ
鳥尾シンク
信号が青になり、シンクたちは歩き出す。
鳥尾シンク
少し成分を変えればいいだけだから、魔法でどうにかなるかも。
あのわんちゃんがいる道、よく使うから地味に困るでしょ。
伊角ユウ
鳥尾シンク
いや、おそらく、犬だったら全員反応すると思うわね。
このあたりで犬を庭で飼ってる人は少ないし、百合学園は全寮制だから、表立ってないって感じだけど。
匂いも1日で消えるだろうし。
伊角ユウ
鳥尾シンク
それにしても、自然なかたちでノアちゃんと接触できてよかったわね。
…まあ、これから、嫌っていうほど、ノアちゃんにはあたしたち…と、青百合生徒会と、黒百合生徒会から、事件がわんさわんさとプレゼントされるから、今くらいでしょうけどね、退屈するのは。
次の日、図書室近くの裏庭、茂みにて。
青百合生徒会のチグサは、ステルス光彩を使って姿を隠しながら情報収集をおこなっていた。
黒海テル
そういえば、最近、学校で怪しげな物音がするとか、そういう噂なかったっけ?
あれも事件じゃない?
多江良チグサ
鏡宮ヒミ
多江良チグサ
鏡宮ヒミ
天野川ノア
美咲シキ
天野川ノア
いやね、事件がなくて暇だなと思ってね。
ま、現実は小説のようにそうそう事件なんて起きないと、相場が決まっているものだがね。
【END】
「唐突な逆サンクチュアリ」
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